■コピーライターの名言・格言 土屋耕一『コピーライターの発想』
一人より十人の方が強いのは綱引きである。
発想とは、一人の頭が、十人よりも強い力を出す技術を言う。
やっぱり思いつきでは駄目だなあ、というのが私の結論であります。
唐突に、頭の中の風にやってくるものは、浜べに打ち寄せられる、
あの、とりとめのない浮遊物と同じであって、
すべては単なる思いつきのたぐいにすぎないのだ、
とする第二番目の仮説に私は手をあげて賛成したい、と思う。
ひらめきだって結局は頭の中に、
ぱっとやってくることは、やってくるのだ。
ただ、その現われたものが、ほかの浮遊物とちがうところは、
それの到着をこちら側で待ちのぞんでいたものがやってくる、
という、このところでありますね。
ひらめきとは、じつに、「待っていた人」なのである。
どうやら、ひらめきとは礼儀正しいお方、と見えて、
裏口からひょっこり、なんてことはないらしいのであります。
私は、ときおり受ける質問のひとつ
「いいアイデアが出ないとき、どうしますか」
に対しては、たいてい、こう答えることにしている。
「石鹸で、ていねいに手を洗うといいんだ。それも、なるべくいい石鹸でね。」
【コピーライターの発想】より
コピーライターの発想
土屋 耕一
■補足
土屋耕一氏は回文で有名なコピーライター。
回文とは「タケヤブヤケタ」のような、
上から読んでも下から読んでも同じになる言葉。
土屋耕一氏の回文の作例:
木苺保護地域
スタミナ充たす
済んだらふらふらフラダンス
土屋耕一氏の回文集も出ています。
『軽い機敏な仔猫何匹いるか―土屋耕一回文集』
よくこんなに作れるものだと感心します。
『コピーライターの発想』は、
そんな土屋耕一氏が、
コピーライターの発想法、技法について語っている一冊です。
古い本なので、時代に合わないところがあるかもしれませんが、
視点がとてもユニークで、興味を引くところがあります。
また、文章の専門家だけに、文体自体が非常に面白く、読みやすい本です。
ちなみに、本書の中で
“コンセプト”という用語が解説されていますが、
「アイデアのようで、アイデアではない」
といった、曰くいいがたい、あいまいなものとして説明されています。
通常一般的な仕事で使われる“コンセプト”という用語は、
“コンセプト”=“基本概念”
事業・商品開発、企画等の全体を貫く基本的な考え・概念
みたいな意味になると思いますが、
業種や人によっては、微妙に異なったニュアンスがあるようですので、
正確に理解をすることが難しい用語の一つかと思います。
ただ、何か創造的なことをしようとすると、
コンセプトが重要視されるのは確かなことだと思います。
実際、土屋耕一氏の発想の手順を見ていくと、
コピーやネーミングにおいて、
発想を広げるための土台として、
コンセプトを活用していることが分かります。
特に創造的な仕事にかかわる人なら
“コンセプト”に対する理解は必須になると思いますので、
『コピーライターの発想』のような発想関連の本は、
そんな人にオススメの一冊だと思います。
また、
発想力のある人というと、
よく“ひらめく”人というイメージがあるかも知れませんが、
本書の中で土屋耕一氏は、“ひらめき”のみを求めることを、
発想法における邪道の構えとしています。
宝探しは、掘りつづけていくうちに、獲物にぶつかることがある。
でも、ひらめき探しの方は、
なににぶつかるのか、それすらわかっていないのであります。
『コピーライターの発想』では、
発想を安易に
“ひらめき”に頼るのではなく、
微妙な言葉のニュアンスの違いを把握し、
“読む人の立場”に立って、案を練り上げていくことをすすめています。
歩行中禁煙
と書く方がいいのか、あるいは
廊下でタバコを喫わないで下さい
の方が効果的なのか、その差を、よく考えてみることが大切なのだと思う。
…コピーライターがやっていること、
というのも結局、こういった言葉のわずかな違いを見つけることである。
ものを書くときに、机に向かっているだけでなく、
受け手の側に坐って読んでみる、といった努力を重ねることで、
私たちの頭の中に、なんらかの回転が発生するのだ。
『コピーライターの発想』は、
発想力を磨きたい人、
コピーライターという仕事に興味のある人にオススメの一冊です。