升田幸三 『勝負―人生は日々これ戦場』

■将棋棋士の名言・格言 升田幸三『勝負―人生は日々これ戦場』



着眼大局、着手小局



全局のことでも、また局部、局部のことでも、その一手の差を慎重に、
そして最善をつくす人が、“勝ち”にゆくわけで、
一手ぐらいなどといって、気楽にしとるやつが、結局は敗北につながる。


せんじつめていえば、そのもっている欠点を長所にする、
これがプロの芸ということになるわけです。


ただ、こういうことは言えると思います。
一度なにかを会得したら、ある時期に、その会得した心境にかえることはある、と。


イチかバチかのやけっぱちみたいなことをやるのを勝負師という人があるが、
これは間違いです。そういうのは勝負師とはいわない、賭博師という。


やっぱり狙いをつけた一心さ、ですね。
そういうときは、かりに失敗しても、非常にいい経験というか、つぎの知恵になります。


そうだ、節を避けるからいかん、節にじかにぶつかればいい。人生、ここにあると。
しかも親父は力で割ろうとしていたからいけなかった。
じいさんは斧で割るから、それで斧の手入れをしとったわけだ。そこですね。





勝負―人生は日々これ戦場】より

勝負―人生は日々これ戦場
勝負―人生は日々これ戦場
升田 幸三




■補足
ますだ こうぞう(1918-1991)
升田 幸三氏は、広島県出身の将棋棋士。
「新手一生」を掲げ、
振り飛車・居飛車などの数々の新手を開発。
「将棋というゲームに寿命があるなら、その寿命を300年縮めた男」と評されています。
現在では、その数々の功績から、
新戦法や新手を生み出した棋士を表彰する「升田幸三賞」が設けられています。

『勝負―人生は日々これ戦場』では、
将棋を人生にたとえたり、
将棋の駒を人間に、人の使い方にたとえたりしながら、
人生と勝負について語られている一冊です。
非常に個性的な人物ですが、
一芸に熟達した人物なだけに、含蓄のある言葉が語られています。

ちなみに、
“着眼大局、着手小局”とは、
升田幸三氏が色紙などによく書いた言葉です。
“視野は広く遠く大局を眺め、行動においては身近な小さなことを着実に行う”
というような意味合いですが、
なかなか味わい深い言葉だと思います。


また、将棋を知らない人には分かりにくいかも知れませんが、
『勝負―人生は日々これ戦場』の二章 “駒の哲学”で、
将棋の駒を人間や役職に例えているところがなかなか面白かったので少し紹介します。


歩兵
戦端が開始されていないときは、
歩の立場は皮膚のようなものだと思えば、いいでしょう、
肉を覆っている皮膚ですよ。
だからあそこ(歩)には、もっとも敏感な神経がかよっていないと困る。


香車
面白いことに、端を守っとるのは真っ正直者なんですな。
融通のきくやつがあそこにおると、いかんのだ。


桂馬
桂馬みたいなものは、命知らずと言うか、
たいへんなことはするんだけど、自分の身を自分で整理が出来んのだ。


銀将
銀というのは、ちょこちょこするけれど、これは案外、正直者なんです。
なぜ正直かというと、いちおう出先で仕事をしたら、本社へ報告に帰るんだ、あれ。
…そういう便利で律儀なところがありますから、前線に出すわけですよ。


金将
金はまぁ、部長みたいなもので、これは銀よりは能力をもってはおるんだけれども、
前線へ出すと、本社へなかなか帰ってこないんだ。
…だから金のほうは、あまり前線には出さんのです。


角行
味方におれば、守備と同時に、敵陣におるのと同じような攻撃の働きをする。
そこで“成り角はひいてつかえ”と…。
それにひきかえ、なま角は、自分の陣地におる場合は、だいたいが不利なんです。
いじめられる駒だから。


飛車
未熟な人は、この飛車を、ちょうど香車と同じように真っすぐ敵陣に飛び込ませて、
成らせることばかり考えるものですが、
この駒はじつは横にきかすところに値打ちのある駒なんですな。
いま右にいて敵ににらみをきかせていたかと思うと、
つぎの瞬間には真ん中へ飛び、敵に脅威をあたえる。この機動性ですね。


王将
王さんには、八方ににらみがきくという他の駒にはマネのできないいいところがある。
前にも横にもはもちろんですが、
背中にまで目がついておって、そこに貫禄があるというか、値打ちがある。


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